手ブロ企画用ブログです。
小話をのろのろと書いてます。裏話やIF話も含みます。
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過去ログその3.百鬼。
1.菖蒲過去話
燃え落ちた村は、ただ死の気配しかしなかった。
「……だから、人間と関わるのはおよしなさいと言ったのに」
元は人が住んでいたのだろう家々は燃えおち、まだ微かに燻って。
その中を迷うことなく村の一番奥へと歩を進める。
血の香と死臭が強く香る、その場所へと。
「おや、まぁ……」
悲惨、という言葉はこの場合この状況を説明するに値するだろうか。
積み上げられた大量の「元・人間」の死体。
元、とつけたのはそれを人間と称するには、少々原型というものが残らなさすぎていたからである。
そして、その大量の死体の上に膝を抱えて座り込む、一人の子供。
「あやめ、くんですね。ふむ、声は届いていますか?」
「………」
空ろな目をこちらに向けはしたものの、何の反応もない。
「この状況をみるに、まぁ、典型的な例ですよね……。だから人間なんかと暮らすなといったのに。あの子達は……」
そこまで言って、それから反応のない子供へともう一度目を向けた。
「あやめくん。もしお辛いのでしたら、忘れてしまいなさい。大丈夫。貴方のこれから生きる場所は保障します。私から話をしておきますから。聞こえてはいるのでしょう?」
子供は、何も反応しない。
「それとも、生きるのを拒みますか?抵抗しない子を殺すのは忍びないのですが……介錯程度ならできますよ?」
「…………」
「選びなさい。全てを忘れて生きるのか、全てを覚えたまま死ぬのか」
やんわりとした口調で、しかしはっきりと告げる。
それからは、ただ子供が反応を示すまで待つだけ。
どれ程の間、待っていただろうか。
ようやっと、子供の気配が揺らいだ。
「…たい」
頬を伝いおちるのは、涙。
此処にきてから、初めて子供が見せた感情。
「生き、たい。死にたくない。怖い、やだ、死にたくない」
「では、生きなさい。それの手助けをいたしましょう。でも、いいのですか?忘れることを選ぶのですよ?」
「……いい、覚えてたくない。怖い、怖いよぉ……!!」
ぼろぼろと零れ落ちる涙を、手を伸ばして拭ってやりながら、すこしだけ困ったような笑みを浮かべた。
「わかりました。では、少々の間、寝ててください。その間にすべてが変わってますから」
「ぅ……」
「いい子。ね?」
ゆっくりと頭を撫でるその感触に少しづつまぶたが下がり始め、数分もしないうちに身体が崩れ落ちた。
それを軽々と受け止め、腕に抱えて、もと来た道を戻る。
着物に血がついてしまうが、それもいたしかたあるまい。
もとより、着物の裾は引きずっているため、血と土で汚れてしまっている。
「さてはて、それにしても恐ろしい」
幼い顔で眠り込む子供を見下ろして呟く。
その身体は、鮮血を頭からかぶったように真っ赤に染まっていた。
否――事実、この村の人間を殺したのは、この子供だ。
「一人で、50人近くを、この様子からすると、ほぼ半日かからずに、ですか。さすがは、鬼ですかね?刀を持たせると怖い」
この村に住むものは法力を持つ者もいたと聞いていた。
だから余計反対をしたのだが。
「結局、無駄でしたねぇ。まったく……子供残して逝くなんて、最低ですよ?」
愚かな、と呟きながらもその顔は悲しそうに沈んでいた。
「安心してくださいとは、言えませんが。この子が生きる環境は整えましょう」
これからこの子供が生きる場所は、決して安全な場所ではない。
それでも、この子は生きるしかない。自ら生きることを望んだのだから。
「さて、早いとこ帰りましょう。無断で出かけてきてしまいましたし……。私の仕事、誰かやっててくれませんかねぇ……」
ふわり、ふわりと、白い髪が跳ねて木立に消えた。
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